#9 子どもたちをどのようにほめればよいのか?

 子どもたちをどのようにほめればよいのか・・・。この課題は、子どもたちと近しい立場にいる大人なら、誰しも一度は考えたことがあるに違いない。

 今回は、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・S・ドゥエックによる書籍『マインドセット「やればできる!」の研究』の一部を紹介して、私なりに思うことを綴っていきたい。

 この書籍のキーワードは、タイトルにもなっている「マインドセット(mindset)」だ。マインドセットとは、考え方、捉え方、心構え、ものの見方、理念、意識、精神など、さまざまな訳があてられるが、私としては、本書内では「(能力に対する)認識」という言葉がもっともよくあうのではないかと思う。

 さて、この「認識」には、「能力は変わらないという認識」(fixed mindset)と、「能力は努力をすれば成長するという認識」(growth mindset)の2つがあるという。そして、もしあなたが子どもたちをチャレンジ精神旺盛で、困難なことにでも果敢に取り組むように育ってほしいと願うなら、子どもたちが「能力は努力をすれば成長する」と思えるように、そのほめ方に気をつけなければならない、とドゥエック氏は指摘する。

 実際にドゥエック氏が行った実験を紹介しよう。思春期初期の子どもたち数百人を対象に、がんばれば解けるくらいのやり応えのある問題を解いてもらい、その成績をほめる。ほめ方は2種類。1つはその子の能力、つまり頭の良さをほめる。「よくできた。君はかしこいなあ。」 もう1つはその子の努力をほめる。「よくできた。がんばったなあ。」 そのあと子どもたちに、新しい問題にチャレンジするか、同じ問題をもう一度解くかを選ばせる。

 すると、ほめ方で子どもたちの選択に違いがでたという。頭の良さをほめた子どもたちは、新しい問題へのチャレンジを避け、同じ問題を解こうとする傾向が強かった。一方、努力をほめられた子どもたちの多くは、新しい問題にチャレンジする方を選んだ。

 さらに、子どもたちにはなかなか解けないようなとても難しい問題を出してみると、頭の良さをほめられた子どもたちは、その問題が解けないことにフラストレーションを感じ、自分はちっとも頭が良くない、と思うようになった。しかし、努力をほめられた子どもたちは、なかなか解けない問題に対してもイライラしたりせず、むしろ面白いと感じ、「もっと頑張ろう!」と考えるようになったという。

 この実験結果は、子どもたちへのほめ方によって、その子のハードル(今回の実験では難しい問題)に対する「向き合い方」が変わってしまうことを示している。

 能力をほめられた子どもは、それによって「あなたには能力がある」というレッテルを貼られてしまった。そして、子どもはほめられたいために、自分に「能力がある」ことを証明しつづける行動を取ってしまうようになる。だから新しい問題にはチャレンジしなくなり、やさしい解ける問題だけを解くようになる。なぜならボロをだしたくないから。さらには、どうしても解けない問題に直面すると、「自分には能力がなかった」と思い込んでしまう。その問題を乗り越えようという気持ちは失われてしまう。こうして、自分はできるものはできるし、できないものはできない、それは「ずっと変わらない」と思い込んでしまう。

 反対に、努力をほめられた子どもは、がんばったこと自体が承認されることを理解し、積極的に難しいことにもチャレンジできるようになる。そして、自分の成長を感じられることがうれしいと感じる。こうして、「自分の能力は努力をすれば成長するもの」と考えるようになり、ますますいろんなことにチャレンジしていく。たとえできないことがあっても、次に向けてどう努力すればよいかを考えられるようになる。

 大人や保護者のほめ方ひとつで、子どもたちの考え方は大きく変わる。周りの人の何げない一言が、子どもたちにとっては大きな転機になってしまう。日ごろから油断せずに、子どもたちとコミュニケーションを取っていきたいものだ。

(記:木村 浩)

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